雲南をたゆたう その1

 脚の長さと強さだけは自信のある僕ですら音をあげるほど広大な「雲南民族村」は、雲南省の中心・昆明にあるテーマパークだ。敷地面積は120haというから、東京ディズニーランド(51ha)とシー(49ha)をあわせても及ばない。
 中華文明の心臓部から遠く離れ、険しい山によって隔てられた中国南部の雲南省が、中央政権の支配下に置かれたのは明代、600年ほど前のことである。何千年という時間感覚を持つ中国では、つい最近のことだ。結果として漢民族に溶け込まない少数民族が数多く残った。
 高度成長とともに空前の観光ブームに沸き立つ中国人にとって、雲南省は「国内でありながら異国情緒を味わえる観光地」として注目されている。とはいえ珍しい民族ほど不便な場所に住んでいるのは自然の摂理。できるだけ楽したい観光客のためにつくられた「少数民族ユートピア」が雲南民族村なのだ。

 村内には政治の匂いが立ちこめている。イベントスペースはその名も「団結広場」、スタジアムで開催される民族ショーのキャッチコピーは「大型民族民間情景歌舞」である。実際には漢民族が圧倒的多数を占めながら、対外的にも国内的にも「多民族国家」であることをアピールしなければならない苦しさが、必死の「ほーら、みんな仲がいいんですよ」という態度に透けて見えるだろう。
 ただ中国でありがちな展開として、建前は立派なのだけど現実が追いついていない。民族ごとに場所が割り当てられて、独特の建築やイベントを披露しているのだけど、そのノリは高校の文化祭だ。訪れたお客さんにサービス精神全開の民族もあれば、やらされている感漂う民族もある。
 学者による専門的な解説でもあれば違うのだろうけど、言葉の分からない日本人にとって漫然と散策しても面白みが分からないだろう。ならば逆手にとって、テーマパークで民族問題についてマジメに考えてみようと企んだ。博物館のようなマジメなところに行けばマジメに考えられるものでもあるまい。以下は「地球の歩き方」の「少数民族紹介」をベースにしたものなので、話半分で聞いてください。

 一口に少数民族といっても1000万人クラスのチワン族から、1万人を切る民族まで様々である。一般に人口が多い民族の展示は堂々としているけど、ヌー族(3万人)プミ族(3万人)トールン族(7千人)あたりはいずれも山の民といった印象で、違いがよく分からない。

  • 引っ越し組にはドラマがある。

 昔から雲南にいたのではなく、元の時代に移住したモンゴル族や、清の時代にやってきた満州族には、なぜ引っ越したのかという物語があるので面白い。モンゴル族のゲルにはチンギスハンの肖像が掲げられているし、満州族の住居には京劇の仮面がずらり並んでいる。

  • エリア外に本拠地があると、イメージしやすい。

 何もかもキンキラでインパクトありすぎなタイ族や、独特な様式の寺院を建ててしまったチベット族は、本拠地のイメージが強いので明解だ。回族の敷地内にあるモスクには「イスラム教徒以外は立ち入るなかれ」と張り紙がされていて、イスラム世界の頑なさが伝わるだろう。

  • 一つでも強みを持っている民族は得。

 母系社会の伝統をもつモソ族や、道教を大切にするヤオ族など、「この民族はこれ!」というインパクトを持っている民族は印象に残る。キリスト教の影響を受けて教会を建てたミャオ族や、音楽が大好きでアコースティックの演奏で迎えてくれるラフ族も同様。

  • メジャーな観光地を持っているとかえって辛い。

 世界遺産麗江をホームにするナシ族や、同じく観光都市として有名な大理に住むぺー族の展示は、この民族村を先に訪れれば何の問題もないのだけど、逆に麗江や大理を観光した後で民族村に来るとスケールの小さいまがい物をみるだけなのでぜんぜん面白くない。

 以上、ディズニーランドでアメリカ文化を語るような無謀な試みだった。実はもう一つ楽しみ方がある。村内には民族衣装を着た若い男女がたくさんいるので、コスプレ感覚でかわいい女の子やイケメン男子を探すのもありだと思う。そっちの方がよほど健全だよね。