『八日目の蝉』『その数学が戦略を決める』
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女が愛する妻帯者の赤ん坊を盗む場面から物語が始まる。そして女は逃げる。最初のうち、読んでいて気持ち悪くなった。それは女の逃げる理由がわからないからだし、女が赤ん坊をあまりに盲目的に愛しこんでいるからでもあるし、女がすぐ見つかって捕まってしまうのではという不安のためでもある。案の定、逃避行は失敗し、2章では成長した赤ん坊を中心に物語が進む。
角田光代は、不完全な家族、壊れた家族の話をよく書く。多くは口当たりのよい、甘い物語で包まれているために、軽んじていたところがあったのだけど、今作はまさに直球勝負だった。「壊れた家族でも生きていていいじゃない」という引きの姿勢から、「壊れた家族だからこそいいじゃない」と、「ふつうの家族」を生きる健全な市民の喉元に刃を突きつけるようなことをやっている。ここまで覚悟の決まった作家だとは思わなかった。
エンディングに向かって突き進む様は、作者がもてる筆力を存分に使って、まさに神がかっているほどである。途中、読むのが辛くて苦しくて嫌になるけれども、それを乗り切った者にだけ、瀬戸内の海を挟んだラストシーンの壮絶な美しさ、あふれるような人間への優しさが待っている。評価★★★★★
- 作者: イアン・エアーズ,山形浩生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/11/29
- メディア: 単行本
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