『八日目の蝉』『その数学が戦略を決める』

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 女が愛する妻帯者の赤ん坊を盗む場面から物語が始まる。そして女は逃げる。最初のうち、読んでいて気持ち悪くなった。それは女の逃げる理由がわからないからだし、女が赤ん坊をあまりに盲目的に愛しこんでいるからでもあるし、女がすぐ見つかって捕まってしまうのではという不安のためでもある。案の定、逃避行は失敗し、2章では成長した赤ん坊を中心に物語が進む。
 角田光代は、不完全な家族、壊れた家族の話をよく書く。多くは口当たりのよい、甘い物語で包まれているために、軽んじていたところがあったのだけど、今作はまさに直球勝負だった。「壊れた家族でも生きていていいじゃない」という引きの姿勢から、「壊れた家族だからこそいいじゃない」と、「ふつうの家族」を生きる健全な市民の喉元に刃を突きつけるようなことをやっている。ここまで覚悟の決まった作家だとは思わなかった。
 エンディングに向かって突き進む様は、作者がもてる筆力を存分に使って、まさに神がかっているほどである。途中、読むのが辛くて苦しくて嫌になるけれども、それを乗り切った者にだけ、瀬戸内の海を挟んだラストシーンの壮絶な美しさ、あふれるような人間への優しさが待っている。評価★★★★★ 

その数学が戦略を決める

その数学が戦略を決める

 僕らは専門家を尊敬し、頼りにする。政策なら政治家に、病気になれば医者に、アートなら芸術家に任せてしまう。しかし、情報処理技術の飛躍的発展は、そうした専門家の権威をぶち壊しつつあるというレポート。専門家とコンピュータによる絶対計算のどちらが優秀かを比べると、ほぼ例外なく絶対計算が勝つというのは衝撃だった。出版業界はデータより経験や勘が優先されてきたけど、そうした曖昧で無駄な部分を真っ先に削れた会社だけが、縮小する市場で生き残れるのだ。うちもがんばろう。評価★★★★☆