懐かしさの魔力

 新宿で映画「まだまだあぶない刑事」をみる。タカ(舘ひろし)とユージ(柴田恭兵)はクールな場面もコミカルな場面も抜群の演技だし、木の実ナナほか役者陣も安定しているのだが、脚本や編集がひどかった。黒幕が誰なのかまん中でバラすものだからスリルがないし、伏線が張られておらず底が浅い。一方で本筋につながりの薄い話が多すぎて、ストーリーが消化不良気味である。下手なカメラワークに凝っているヒマがあったら、登場人物を半分にして、黒幕の恐ろしさと哀しみを存分に出してほしかった。


 一番イヤだったのが「懐かしのアブ刑事」風のシーンが多かったこと。タカ&ユージのダンディーさやセクシーさに憧れて育った人間(だから僕はときおりステップを踏んだり派手なジェスチャーをするわけです^_^;)としては、二人がオヤジネタを披露するのもショックだったし、かつての港署の面々が違う立場でイチイチ出てくるのも鬱陶しかった。かつてのファンに媚びるより、初めての人が見ても面白い話にしないと、「踊る大捜査線」に負けますよ。


 「懐かしさ」というのは魔力だ。誰もが「昔はよかった」と思いたがるが、昔も今もいいこと悪いことの比率なんて変わらないはずだ。実は自分の歩んできた道を肯定する自己証明であり、現状に対する不満を裏返した現実逃避なのである。あとはご臨終を待つだけの世代が懐かしさにはまるのは勝手だが*1、僕らがそれに巻き込まれちゃいけない。

 映画「クレヨンしんちゃん モーレツ!オトナ帝国の逆襲」の冒頭で、大人たちが昔のテレビ番組や生活を再現した「20世紀博」に没頭するあまり、子どもを見捨ててしまうシーンが本当に怖かった。アニメだからといって笑えなかった。

 昔は昔、今は今と割り切って生きたい。懐かしさにおぼれて思考停止したくない。新しい時代に飛び込もうとするなら「ALWAYS三丁目の夕日」に涙している場合じゃないですよ!

*1:昭和30年代の生活を再現した老人ホームなんていいかもしれない。