吾妻線ひとり旅

yabu812005-12-18

 青春18きっぷを使って、群馬県のJR吾妻線(渋川〜大前間、55.6キロ)に初乗りしてきた。
 吾妻線の起点は渋川駅だが、ローカル電車は高崎駅から発車する。高崎というのは鈍行旅行をしているとやたら縁のある駅で、それも高崎線信越線、上越線両毛線八高線吾妻線上信電鉄の列車の多くがここを始発・終点にしているためだ。年に2、3度はここで乗り換えているが、長いことやっていた改修工事が終わり、コンコースはすっかり新しくなっていた。リニューアルした駅ビルのあか抜けない広告センスに、東京から離れたことを実感する。
 湘南色の電車は3両編成で走り出した。右手にみえるのは赤城山で、のびのびとした山裾には住宅地が広がっている。またこのあたりは関越道が通って交通が便利なためか製造業が盛んで、電車はつぎつぎと工場の脇を走る。20分ほどで渋川に到着。


 日本海側の大雪で途中運休している上越線が右に分かれ、ここからは吾妻川に沿って走っていく。ボロ電車はモーターを唸らせ、高度を上げていく。群馬は赤城・榛名の二名山をはじめ山の多い土地であるが、ほかの山国と違うのは男性的な印象を受けるところだ。崖状の岩肌は荒々しく、稜線は凸凹していて、たとえば中国山地の穏やかな山々とはずいぶん異なる。なにしろ長野との県境にある浅間山は歴とした活火山であり、草津白根山も静穏とはいえ火山活動に入っているという。この地域の山たちはいま青年期にあり、眺める人間に緊張感を与える、なんてだらしない自分がいうのもヘンな話ですが。


 この吾妻線はもともと沿線で採れる鉄鉱石を輸送するために通された路線だが、すでに鉄山は閉山しており、貨物輸送は行っていない。沿線にそれほどの大きい町はないが、火山帯ということもあって温泉地への連絡駅が多い。中之条駅からバスに乗れば四万温泉長野原草津口駅からなら草津温泉万座・鹿沢口駅からはその名の通り万座温泉や鹿沢温泉などの有名温泉に行くことができる。
 温泉というとジジババのたまり場という印象があるが、近ごろは若いカップルも多く見かける。しかしお湯につかって、やることをやって、刺激の少ない土地でそのあと何をするのだろう。男と女の間には語ることなど何もないと思うんだけどな。


 終点の一つ手前、万座・鹿沢口駅から終点大前駅まではわずか3.1キロ、3分で着く。しかしほとんどの列車は万座・鹿沢口止まりで、大前まで行く列車は日に5往復しかない。なんでそんなケチなことをするんだろうと思ったが、大前についてわかった。線路一本、ホーム一本の寂しい無人駅の正面には吾妻川の河原が広がっている。対岸の高台には大前の小さな集落が見え、嬬恋村の役場もあって、橋を渡れば10分ほどで行けるそうだが、ほとんどの客は万座・鹿沢口から国道を走るバスで行ってしまうのだという。


 したがってホームに降りた10人ほどの乗客のうち、婆さん1人を除く9人は同業、要するに鉄道ファンだったようで、ホームで写真を撮ったり駅前をウロウロしてから折り返しの電車に戻ってきた。キャベツの高地栽培で知られる嬬恋だけあって雪は深く風は冷たく、暖房のよく効いた車内が心地よかった。