岸辺のアルバム

岸辺のアルバム (光文社文庫)

岸辺のアルバム (光文社文庫)

 殺しもない、化け物も出ない。
 そばに家族がいるだけなのに、なぜこんなに怖いのか。

 今年春にに光文社文庫で復刊されたときから気にはなっていたのだが、読み終えた今、コレを読まずに別の本を読んでいた自分を猛烈に反省している。ちょっとした本読みを気取っていたけど、どうしようもないバカだ俺は。

 舞台は多摩川の土手ぎわの一軒家住む四人家族。父は家族のため仕事に打ち込み、母は家族の世話しか考えたことがない。姉は自分の夢のために英語を一生懸命勉強し、弟だって頭こそ悪いが母親思い。外から見れば「いい家族」、ところが一本の電話をきっかけに、家族なんてあっけなく壊れていく…

 家族が木っ端みじんになる直前、父は思う。

四十五ならこんな時に動じないくらいの人間観も世間智もあっていい筈だが、一向に頭が働かない。…家族の方こそ気心が知れていい筈だが、則子(妻)がひらき直るのか許しを乞うのか、律子(姉)をどう励ましたらいいのか叱ったものか、判断の手がかりが掴めない。報いといえば報いだ。ほうっておいた報いだ。

 我が家はたった三人の家族だが、親父とお袋の胸の内なんて、正直考えたこともなかった。いったいどこの誰が、この本で起きる出来事を、他人事と静観できるだろう。どれほど家族を知っているだろう。

 家族はいいものだ。家族はあったかい。なんて神話を無邪気に信じている人は、早くこの本を読むべきだ。波はもう足下まで来てるのかもしれない。そして新しい家族をつくろうとしている人は、本当に覚悟があるか、立ち止まって考えてほしい。

 ただでさえ遅れ気味の僕の婚期は、この本で確実に10年は遅れました。人生をビビらすほどの強烈な一冊。奥田英朗荻原浩平安寿子あたりが好きな人には強くお勧めします。この本を読んで何も感じない人とは、縁を切っても悔いがありません。評価★★★★★