金沢城のヒキガエル

 先週は東北地方へ出張。「あゆみブックス仙台店」と盛岡「さわや書店」の二店は平積み、棚ともセンスが抜群で、営業に行くのが楽しくて仕方ない。その日の仕事を終え、日報をまとめて一休みしてから、コートを着て客としてどかどかまとめ買いをしてきたので、ちょっとずつ紹介。

 金沢城本丸跡の池に住む1500匹ものヒキガエルを9年にもわたって追跡した調査レポート。この本の魅力は、生物学者たる著者の、ユーモラスな語りにある。
 ある晩、左の後ろ足を失った三本足のカエルに出会う。「何とかもっと生きてほしいと願いながらも、ふたたび出会うことはあるまい」と思っていた。しかし…

 私の予想ははずれ、彼はその後七年もの間元気に生き抜き、たった一度だけだったが、彼女を得ることもできた。これは、私が調べた金沢城本丸跡の全ヒキガエルの中で、五本の指にはいるくらいのすばらしい生涯である。その秘密は、本性怠惰なヒキガエルの中にありながら、ほとんど毎夜のごとく餌を求めて活動する、例外的に勤勉なカエルであったことにあるらしい。私との55回におよぶ再会数がその勤勉さを証明している。

 ここにはヒキガエルへの愛がある。言葉が通じないヒキガエルが何を考えているのか知りたい、という強い思いがある。そして、のんびり暮らしながらちゃっかり子孫を残しているヒキガエルの生き方に、進化論で説くような激しい生存競争が自然界の全てなのか?と疑問を突きつける。理科の2分野がまったくダメだった自然オンチの僕が唸った一冊。評価★★★★★

下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち

下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち

 学力低下ニートの増加が話題になっているが、それは今の若者が昔に比べて怠け者だからなのだろうか? 内田センセイは全く違う見方をとる。今の若者は、経済的にきわめて合理的な考え方をした結果、苦労してサボっているのだ、という。問題は、経済的合理性だけがすべてだと若者に植え付けてしまった日本人全てにあるのではないかと問う。まったくその通り。「今の若いもんはダメだ」という言い方をする人間にロクな奴はいない。評価★★★★☆

狼少年のパラドクス―ウチダ式教育再生論

狼少年のパラドクス―ウチダ式教育再生論

 『下流志向』が理論編だとすれば、こちらが実践編になる。教育という経済的合理性には向かない仕事に、弱肉強食や適者生存といったルールを持ち込めば、どんなことになるのか? たとえば早稲田大学の主導で「だから早稲田はトクなんです。」という受験生向けの雑誌を出したことについて激怒する。

 早稲田のこの広告は広告屋のアオリに乗って、「バカをおだてて商品を買わせる」戦略を採用している。この「スペシャルマガジン」の広告文面に横溢するのは、誰が見ても「バカな受験生はこういうコマーシャル乗りのキャッチに簡単にひっかかるんだよな、バカだから」という受験生を「なめた」姿勢である。このような姿勢がどのように教育的に機能すると思っておられるのか。

 早稲田の文芸科に通って、言葉を上手に使って自分の世界を表現する人、思考が速くてどんな難解な文章でもすらすら読み解く人、映画でも演劇でも興味あるものを突き詰めるため没頭する人など、刺激的な仲間に何人か出会った。しかし、残念ながら少数派である。もし「就職に有利だから」「資格がとれるから」「周りに自慢できるから」といった「トク」のために集まる人がのさばっているのなら、いま大学にいる僕と同じような考え方の持ち主たちはさぞ息苦しいだろうな、と思う。いやな感じだ。評価★★★☆☆