恋って苦しいんだよね
今日はいつにもまして、恥ずかしいことを書きます。
- 作者: 永沢光雄
- 出版社/メーカー: リトルモア
- 発売日: 2007/01/26
- メディア: 単行本
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著者は長年ライターとして活躍しただけあって言葉は巧みだが、いわゆる短編小説として完成されているかと問われると、頷けない。誰彼かまわずつかまえて「最高の小説なのでぜひ読んでください」とはいえない。
ただ、読んでいて懐かしさを憶えた。僕はまだ25歳だし、結婚もしていないので、未来を懐かしいと思うのも妙だが…。
もしかしたら、どこで植えつけられたのか分からないけど、憧れなのかもしれない。中年で、酒びたりで、優しい奥さんがいて、ちょっと不幸な生活。
幸せになると、ものを考え(られ)なくなる。ある先輩にあとで指摘されたのだけど、自分に満足しきっている時期に書いた文章は、とても読めなかったという。そしてものを考え(られ)ないことは、怖い。
もっともこの考えを推し進めると、不幸せなことが幸せという倒錯にはまるし、結婚には抵抗あるが離婚には抵抗ないなんていいかねないが、それはバランスの問題である。あまり強烈な不幸(戦争とか大地震とか殺人とか)にあたると、人は大きな言葉、政治的な問題に逃げてしまうので、自分のことを省みるには少し不幸せなくらいがいい。
この本に収められた小説の居心地がいいのは、少し不幸せなポジションにある主人公たちが、ほどほどの感傷に酔いながらも、そんな自分や現実を突き放しているからだ。
たとえば、血尿が出たときの描写。
白い便器が見る見る、鮮やかなワインのロゼ色に染まりだしたのである。
ただ小便を放出したつもりなのに、この液体はなんだ! 血尿という言葉が頭をよぎり、高校時代の体育教師の言葉を思い出した。
「箱根駅伝を走り終えたときは、血の小便が出たもんだ」
そして眠ってる奥さんを起こして訴えるのだが、その返事が
「血尿? ふーん。明日、病院に行きましょう。だから早く寝なさい」(「スキップしながら宇宙をわたって」)
初めての体験でパニックになりながらも、どこか投げやりで、諦めた自分がいる。人生に逆らおうとしない。そんな境遇を、鼻で笑うだけだ。
こういうところに共感するような人たちは、残念ながら、あまり幸せになれないだろう。
パートナーが今いるいないに関わらず、恋を楽しいものと思えない、つい苦しい恋をしてしまう人にだけ必要な小説である。必要な人だけ読んでください、としか僕には言えない。