思えば福岡へ来たもんだ 小倉

 羽田7時40分発のスターフライヤー43便は、ところどころ貨物船の浮かぶ周防灘上空で高度を下げ、このままでは海に突っ込むぞと思ったら手をさしのべるように真新しい滑走路が現れ、9時30分新北九州空港に着陸した。朝の東京は雨が降り始めたばかりだったが、1000キロ以上西方の九州ではすでに本降りとなっており、傘を持たずに出てきた僕はどうしようと思ったが、とりあえず小倉駅行きの西鉄バスに乗り込んだ。

 小倉の繁華街である平和通り停留所でバスを降り、向かいのコンビニで小さなビニール傘を買った。まず足を運んだのがモノレール旦過駅の足下を起点に伸びる旦過市場、狭いアーケードの中に、魚屋や揚げもの屋、肉屋が連なる。鯨の切り身なんて売っている。会社帰りにちょっと干物と厚揚げを買って部屋で炊いておいたご飯のおかずに食べる、なんて生活ができれば一人暮らしも楽しいのだけど、スーパーマーケットのパック入り総菜が発達した東京ではそれは許されない。
 アーケードを出ると雨がますますひどくなっており、清張記念館へ着く頃にはジーパンがずぶ濡れになった。ここには松本清張の杉並時代の家が再現されている。営業マンの仕事も4年目に入ると、自分が文芸編集者志望だったことを忘れそうになるが、革張りのソファが置かれた応接室の正面に立って、大作家を前に緊張していたであろう先輩の編集者たちに思いをはせる。書庫も再現されていて、3万冊の蔵書というから下手な図書館より揃っているだろう、これだけの資料を頭にたたき込んでいた作家の頭が恐ろしい。
 清張記念館を出ると雨が止んでいた。もう降ることはないだろうと思い、巨匠の傘立てにビニール傘を寄贈してきた。
 コンクリート製で情緒のない小倉城を覗き、リバーウォークという大きな商業施設で名物だという焼きうどんを腹に入れてから、紫川をわたって駅までやってくると、伊勢丹やらビルが建ち並ぶ近代的な駅前のすぐ脇に、ストリップ劇場やらまあそういう店が建ち並ぶ一角があり、立ち飲み屋が店を開けている。一軒ならともかく、何軒もの飲み屋がまっ昼間からオープンしているとはさすがは北九州だ。思わず入って一杯やりそうになるが、僕は酒を飲むととことんダメになるのでグッと堪える。