なぜか上海

 上海。
 中国のほかの都市のように王朝の都としての歴史をもたず、19世紀後半から猛烈な発展を遂げた若い都市。
 イギリス、フランス、アメリカ、日本などが租界という名の半占領地をもち、「中国のなかの外国」といわれた国際都市。
 複雑な中国の近現代史において、労働運動、革命運動、文学運動などの中心となり、さまざまな志をもつ人間が集まり散じた怪しい都市。
 2010年の万博開催を前に人と金がますます集中し、行く先の見えない中国のなかでも最も先の見えない希望と不安の都市。
 今年の夏は、「魔都」の風を感じに、上海へ行こうと思います。

1667 上海物語 国際都市上海と日中文化人 (学術文庫)

1667 上海物語 国際都市上海と日中文化人 (学術文庫)

 という訳でまず手に取ったのが、「都市の歴史」をざっと描いたこの一冊。
 大学を出てはや3年、学術文庫に立ち向かうには脳みそがスカスカになっているようだ。孫文魯迅蒋介石に始まり、中国人、西洋人、日本人がさまざまな立場で顔を出すので、人物を追うのも一苦労である。
 まあ仕方のないことで、上海はたかだか百数十年の歴史しかないにもかかわらず、街を長きにわたって治めたスーパースターがいないのである。他の都市であれば誰それが圧倒的な権力者として君臨した、というのがあるので、それをたどれば流れがつかめるのだが、上海にはいろんな人がやってきては消えていく。そんな各所でごちゃごちゃやっている感が、混沌の街らしいともいえるだろう。
 日本人で唯一の例外は内山書店を作った内山完造、中国の文化人への支援を惜しまず、魯迅らの厚い信頼を得ている。戦前から戦後にかけて、一貫した姿勢で日中間の交友に尽した姿には頭が下がる。「国家の品格」はこういう人物が国民のうちに何人いるかではないだろうか? 評価★★★☆☆
 
宋姉妹―中国を支配した華麗なる一族 (角川文庫)

宋姉妹―中国を支配した華麗なる一族 (角川文庫)

 19世紀末の上海に、財閥の娘として3人の姉妹が生まれた。一人は財閥へ、一人は孫文へ、一人は蒋介石へ嫁ぎ、それぞれが違う道を歩んでいく・・・
 一家のことを念頭に置く長女、理想を譲ろうとしない次女、自分の魅力を信じ動く三女、まさに中国版「カラマーゾフの兄弟」とでもいった3姉妹が、激動する中国の近現代史という舞台を得たとき、これほどスケールの大きな話を作るのかと驚いた。おれはまだまだ小さいなぁ。NHKスペシャルの書籍化ということで、文章も簡潔だし資料もまとまっているので、教科書では難しい中国史を手早くつかむことができる。評価★★★★☆