僕はなぜ洗濯機を買わないのか

 部屋に洗濯機がないという話をすると、たいてい哀れみの目を向けられ、次のような会話が待っている。
「じゃあ、洗濯物はどうしてるんですか?」
「近くにコインランドリーがあるから」
「一回に数百円もかかるなら、洗機を買った方が安いじゃないですか」
「でも、僕の部屋、洗濯機を置くスペースがないんだよね」
「なら引っ越せばいいじゃないですか」
「だってコインランドリーがあるから」(以下ループ)
 相手はものすごく不満そうで、もうこんな奴とは話ができない、という顔をされる。
 最初のうちは気にしていなかったが、みんながみんな洗濯機にこだわるところを鑑みるに、問題は想像以上に大きいようだ。それは生活や人生といったモノに対する考え方の違いではないだろうか。結婚相手が見つからないのも、案外このあたりに原因があるのかもしれない。
 以下、弁明です。判断はお任せします。


 第一に、僕は家電好きだ。
 のっけから矛盾したことを言うようで恐縮だが、暇さえあれば新宿のビックや秋葉原のヨドバシへ行き、新製品の新機能をチェックする。喫茶店で山ほど集めたカタログを眺め、ニヤニヤする。要は、何事に対してもオタクなんですな。
 それならどうして洗濯機一つ買わないのかというと、引っ越しが面倒だからである。僕のあこがれは車寅次郎の、トランク一つで住処を変えられる生き方だ。現実にはまあ山ほど本もあるし難しいけど、基本的な原則として大きな物を増やしたくないのだ。


 第二に、環境に恵まれている。
 コインランドリーは徒歩5分の場所にある。営業時間は朝7時から夜12時まで。雨の日に傘を差しながら大きな洗濯物を抱えていくのは難儀だけど、人生でもっと大変なことはいくらでもあるじゃないですか。
 つまり、
1)ひとり暮らしなので洗濯は週一回ですむ。
2)コインランドリーが近くにある。
 の条件がそろっているからこそ、わがコインランドリー生活(CLL)は保証されている訳で、万が一ランドリーが閉鎖されるようなことがあれば、洗濯ができなくなりそのエリアの洗濯機が置けない・買えない住民は引っ越しせざるを得なくなる。すると中央4丁目は廃墟と化すかもしれない。そのような事態を招かないためにも、地域でランドリーを積極的に使うべきなのだ。


 第三に、慣れがある。
 僕は洗濯と一緒に部屋の掃除をしてしまう。洗濯物をランドリーに放り込む→部屋に掃除機をかける→洗濯物をこんどは乾燥機へ→風呂や便所の掃除をする→洗濯物を回収してアイロンをかける、までがちょうど2時間である。これを4年間続けているので、年間52週×4年=200以上続けてきたわけだ。
 人間どんな面倒なことでも10回もやれば慣れてしまうし、50回も続ければ習慣に依存するようになる。僕の場合、洗濯は土日と決めているので、出張などでその日に洗濯ができないと、一週間の終わった気がしない。


 そんなこんなで華麗なるCLLは続いているのだが、先日ついに「洗濯機買ってあげようか」とまで言われてしまった。
 思わず「え、ありがとう、でも…」と動揺してしまったけど、ここは開き直って「よーしわかった、買ってくれ」とでも言うべきだったと反省した。買ったところで部屋に置きようがないのだが、何か新しい展開が待っているかもしれない。
 漫然とした日常を抜け出すきっかけは、CLLとの決別にあるのかしら?