満州まぼろし旅行 その3

 中国でいらないもの大賞をしたら、かなり上位に食い込むのが、ロータリー型交差点だろう。ヨーロッパには多いが、日本では見かけないし、中国でも北京や上海にはあまりなかった(その代わり立体交差が多い)ように思う。
 ところが満州の開発にあたって、近代都市を目指した日本人は、長春瀋陽、大連といった街の要所にロータリーを設けた。昔の写真を見ると、中心の広場から道路が放射状に広がる様子は美しい。実際ロータリー型交差点は、信号で一時停止の必要がないし、事故率も低いという。早起きしてクルマの少ない中山広場に立ってみれば、実に効果的に機能している。早朝だけは…

 雨の長春は文字通り地獄だった。
 まずこの町には道路以外の交通手段がほぼない。したがって、どこかに行こうと思ったら眼を皿にしてバスの停留所を探すか、タクシーの奪い合いに加わらなければならない。
 運良く乗れたところで、当然のごとく大渋滞である。ただでさえ車の台数が多い上に、どいつもこいつもセダン型で場所をとる。ちょっとでも隙間があれば割り込もうとする。おまけに時々自転車引きのリアカーが傍若無人に突っ込んでくる。歩行者はその合間を縫って横断を試みる。横断歩道も歩道橋も地下道もないので、決死の覚悟で渡るしかないのだ。一応並木道になっているのだけど、優雅さのかけらもない。ついでに歩道ではタチの悪いガキ二人が目の前の婆さんのハンドバッグからひったくりを試みている。
 ロータリー型交差点が致命的なのは、交通量が増えて一度つまり出すと、接続している道路すべてが麻痺してしまうのだ。事ここに至っては瞑目するしかない。


 路面電車も悲惨である。
 上野駅を摸した大連駅の目の前に停留所があるのだが、驚いたことに、路面電車の線路上にずらずらクルマやバスが連なっているのだ。日本の教習所では「路面電車の軌道上には右左折以外入るな」と教えてなかったか?
 隙間があれば割り込む中国のクルマは、路面電車の鼻先に突っ込んでくるので危なくてしょうがない。降りるときだって安全地帯なんてないようなものだから、気をつけないといとも簡単に轢かれるだろう。


 満州国当時としては最先端だったはずの都市計画は、今となっては障害になってしまった。街は時代に合わせて成長しなければならないのに、本来強権的な政治力を持つはずの共産主義国家でできていないところに、中国の悲しみを見る。