NY点景(1) 地下鉄とタクシー

 ニューヨークの地下鉄は、武骨だ。駅は地震の心配がないためか細い鉄骨がむきだしである。車両も実用本位でシートにクッションはないし、電車の止め方も荒っぽい。
 ホームで待っていてもアナウンスも時刻表もないので、次に何行きが来るかは運次第である。もしやダイヤなんてものが存在せずむやみに行ったり来たりしているのではと心配になり、交通局のホームページを検索したら、一応時刻表はあるらしい。時間通り走っているかは知らないけど。
 でも、都市交通なんてその程度でいいのだと思う。給食で使う先割れスプーンのようなもので、走ってくれさえすれば結構。情緒も快適も一切不要。十分も待てば目的の電車は来るし、乗車時間だってたいして長くないんだから。

 JFK空港から初めて乗った地下鉄のE線は緊張した。妙な黒人のオッサンが連結器をわたってこっちへ来る。しかも車両のまん中で身振り手振りを交えて演説をはじめた。なんだろうと思ったが、どうやら乞食らしい。周りを見渡すと、他の乗客は見て見ぬふりをしている(アメリカ人も見て見ぬふりはするんだな)のでそれに倣う。演説は終わり、オッサンは恨めしそうに両手をあげて去っていった。あまり効率のいい物乞いには思えないのだが。
 ブロードウェイの下を走るQ線では、白人の母親と二人の息子が、手を動かして遊んでいた。よく見ると「せっせっせ」である。ニューヨークの地下鉄は全線均一$2、乗客はピンキリである。日本から来た貧乏旅行者なんて、どっちかと言えばキリの方ですな。

 地下鉄と並ぶ都市交通の主役・タクシーに乗る機会はなかったのだが、イエローキャブが屋根にメッセージを乗せて走っていく。なんだか誇らしげだ。
"12,053TAXIS  8.1MILLION PEOPLE"