NY点景(2) ニューヨーク大学

 下町の香りがするグリニッチヴィレッジの細い路地を行ったり来たりしていたら、石造りの建物に、紺地に「NYU」のロゴが入った旗が掲げられていた。近くの案内図を見ると、このあたりに私立ニューヨーク大学の校舎が集まっているのだという。

 東京で街にとけ込んでいる大学といえば駿河台の明治大学が筆頭だったが、今やリバティータワーなんていう象牙の塔に引きこもってしまった。一方ニューヨーク大学の校舎は中小企業の入った雑居ビルのような感じで、通りに面している。
 坪内祐三の「ストリートワイズ」ではないけど、学問は人びとに開かれているべきだし、都市のざわめきを底音に講義すべきだと思う。その点、ニューヨーク大学は文字通り「街角の大学」といった風情で、いっぺんで惚れてしまった。
 ニューヨーク大学の中庭とでもいった位置に、ワシントンスクエアという公園がある。まん中に少しくぼんだ広場があって、夕暮れその石段に腰掛けていると、講義の合間か講義が終わったのか、さまざまな肌と髪の色をした学生が、本を読んだりお喋りしたりしている。

 僕は人見知りが激しいし、引っ込み思案なので(誰だそこで笑ったのは!)、あまり大きなことは言えないのだが、学生という損得勘定考えず自由にものが言えるときに、もっと広くいろんな背景をもった人びとと交流しておけばよかったなと後悔している。だから彼らがうらやましいし、いっそ会社なんて辞めて留学しちまおうか。
 が、あとで調べたら全米トップ5のロースクールや全米トップ15のビジネススクールで知られる超難関大学と知って、アホにはとても無理と断念した。
 同時に「無門の門」などといいながら夜と休みは人びとをはねつけ、青春の不安と戸惑いに襲われた寄る辺なき若人の集う場所であった大隈講堂前を夜間立ち入り禁止にし、学生から金を巻き上げ知性も情緒もへったくれもないビルを建て続ける悪徳業者のような、馬鹿田大学の隣のカス大学に入ったことを激しく後悔するのである。あそこにいた4年間、今の先生や仲間たちに出会えなかったら、どうなっていたことか。
 つい感情的になってしまった。若い頃の思い出は必要以上に人を熱くさせる。