NY点景(3) 対岸から見たマンハッタン島

 僕が泊まったのは、ニュージャージー州にある民宿だった。ハドソン川に沿った丘の上にあり、1キロほどの川幅の向こうはマンハッタン島のアッパーウェストサイド、その奥はセントラルパークにあたる。
 僕は東京から30キロほどのベッドタウンの出身だが、都市のざらつきも農村のまったり感もあわせもった中途半端さが嫌でイヤで、高校もわざわざ都心の学校を選んだし、大学に入ったらとにかく東京のど真ん中に住みたくて実際身を置いて、出版という都市産業(虚業?)に携わっている。が、虎の縞は洗っても落ちない、とはよく言ったものだ。営業に出ては口先だけで商売をし、寄席でケタケタと汚く笑い、アルコールを常用して毎晩のように酒臭くなった都市の生き物になりかけたとき、街から離れたくなるのだ。完全に離れては生活できないのだが、少しだけ距離を置きたい。
 僕もよく言われるんです。悪い男じゃないけど、離れてそっと見守っていたいって。
 そんな郊外出身者のメンタリティをもった僕は、ハドソン川を隔てて眺めるマンハッタン島が好きだ。タイムズスクエアの雑踏からバスに乗って、リンカーントンネルを潜って宿に戻ってくると、マンハッタン島からは物音一つしない。小さな白い光が連なって、精密機械のようだ。あの中で何百万という人びとが付き合い、感情をぶつけあっているとは信じられない。
 それでも24時間営業のラガーディア空港へ向かう航空機がほぼ1分おきに、世界一の都会を目指す人びとの思惑を乗せて、ハドソン川上空を南から北へ、レールを滑るかのように規則正しく降りてくる。一つ、二つ、三つと数えても眠れないうち朝を迎えると、ビルの群れが朝日を浴びて、黄金のように輝き出すのだ。