思えば福岡へ来たもんだ 門司港

 渡船に乗って戸畑に戻り、今度は九州の果て・門司港に向かう。かつて九州各地から大阪や東京、あるいは大陸をめざす人々が集った港町である。今や関門海峡にはトンネルやら橋やらが作られ、昔日の役割を果たすことはなくなってしまったが、貿易会社や税関の古い建物を活かして観光エリア「門司港レトロ」として整備がなされた。
 鉄道ファンなら知らぬ人がいない、門司港駅。大正3年に建築された洋風の駅舎は迎賓館のようだ。関門連絡船を利用する人がくぐったトンネルはシャッターを閉められているが、その脇に共産主義者や諸外国のスパイを監視するため設けられた小さな穴が時代を感じさせる。

 門司港駅の脇には旧九州鉄道の本社屋を再利用して作られた鉄道のテーマパーク・九州鉄道記念館があって、鑑賞中ずっとニヤニヤしていただろうと想像するのだが、興味ない人には興味ないだろうから詳細は省く。
 一度ホテルに入って休んでから、再び門司港レトロへ。関門海峡の向こうに下関の夜景がみえる。夜景というのはただ漫然と広がっているだけではだめで、山や海といった闇があるから映える。その点ここは背に山、目の前に海峡、おまけに大きな橋は架かっているし、夜間も多くの貨物船が行き来をするので、夜景のロケーションとしては最高である。展望室に上ると案の定カップルが多数存在していて、大切な相手とすてきな夜景を見ている幸福に嫉妬する。イヤだね。
 悔しくて酒が飲みたくなったので、海峡に面したスペイン料理店でジャガイモとソーセージのトマト煮をつまみながらビールを飲んでいると、昨日までしんどいしんどい呻きながら仕事をしていた自分が嘘のように思えた。