間違いだらけの上海案内 その3

 共産党といえば、六本木ヒルズのような流行スポットである新天地のすぐそばに、毛沢東率いる中国共産党第一回大会の開かれた建物があって、いまは記念館としていろいろ展示されているのだが、客がいない。ここは共産党支配の国じゃないの? 党員にとっては聖地じゃないの? 修学旅行とかで生徒は来ないの? と心配してしまうほどだ。僕は政治とか党派とか抗争が大好物なのでたいへん満足だったのだけど、日本人を喜ばせてどうする。
 中国人は現実的というか、博物館とか記念館にはほとんど興味がないらしい。革命の父孫文の故居にいたのも西洋人と僕だけだったし、虹口地区にある中国近代文学の父・魯迅の故居に至っては、わざわざ僕のために鍵を開けて、人の良さそうな警官のおじさんがなかを案内してくれた。日本なら太宰の斜陽館にしても小倉の清張記念館にしても賑わっているのとは大違いである。中国語しか話せないおじさんに講談社文芸文庫魯迅作品集を見せたらひどく喜んでいたなぁ。

阿Q正伝・藤野先生 (講談社文芸文庫)

阿Q正伝・藤野先生 (講談社文芸文庫)

 というわけで、どこへ行っても人だらけの上海で、エアコンは効いているし、トイレもきれいだし、博物館は一休みにもってこいである。
 逆に日本人が休憩ときいて思いつくのは公園であろうが、日本人の考える公園とは遠く離れたものである。魯迅が生前散策したという魯迅公園に足を運んだのだが、何十人という集団ごとに太極拳をやる人、胡弓を伴奏にカラオケする人聞く人、そして公園で一番大きな勢力が社交ダンスをやる人たちである。がなり立てるラジカセを伴奏に、おじさんおばさんが仲良く踊る姿は、さながら運動会前の小学校の校庭である。静かに物思いにふけるなんてできそうにない。
 筆に水をつけて路面で書道をする人たちや、対戦中の将棋盤の周りを取り囲んであれこれアドバイスする人たちなど、中国人は毎日が実に楽しそうである。中国人がみたら、日本人なんてみんな引きこもりに思えるのではないだろうか。

中国共産党第一回大会記念館にて。ここで悪さをしたら死刑?

魯迅公園でShall we dance?な皆さん。先生もいてみんな真剣。