ソウルの補習問題 第二問

 その国が進んでいるかどうかをはかる目安は、道を安全に歩けるかだと思う。
 上海は最悪だった。歩道を自転車やバイクが爆走するし、交差点では盛大な信号無視が繰り広げられる。台北はそれよりマシだが、イナゴの大群のようなバイク連に気をつけないとひき殺されそうだ。
 ソウルの車もあまり行儀がよろしくないと聞いていた。ところが実際には整然としたもので、無理な横断を試みてもちゃんと止まってくれる。タクシーの運転手も親切で、あれれという感じだった。


 これは決して差別ではないつもりだが、韓国は遅れていると思っていた。
 明治維新以来、近代化・西洋化のトップを走り続けた日本。韓国が「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長を経験しても、所詮は日本の背中を追いかけているに過ぎないと思い込んでいた。
 ところが公共施設をとっても、ゴミゴミした新宿駅や使いづらい成田空港と比較して、新しいソウル駅や仁川空港のなんと快適なことか。タクシーの運転手はカーナビにケータイにハイテク機器をなんなく使いこなしているし、街中には日本以上にPCバンと呼ばれるネットカフェがあふれている。
 高速道路を取っ払い、甦った清渓川も見事で、本当に都心のど真ん中を流れていることに驚いた。日本で言えば日本橋どころか渋谷川(があることを知らない東京人がほとんどだろう)の暗渠を取っ払うくらいの大事業であり、息抜きにふらっと立ち寄れるソウル市民がうらやましい。
 どうやら韓国はまぎれもない先進国であり、日本は追い越されつつあるようだ。

清渓川:これはソウル市民の財産だ。半島の乾いた青空を眺める。

 やはり僕らは、韓国に世界一遅れた国・北朝鮮の影を見てしまうらしい。
 だが内戦から半世紀がたち、韓国人にとって朝鮮戦争は次第にカッコに入れられつつあるんだなという印象を持った。滞在の一日を板門店ツアーに費やしたのだが、JSA(共同警備区域)はもちろん厳重な警備体制が敷かれていても、任務に当たる国連軍・韓国兵の表情は観光客相手のそれだった。北朝鮮へ通じる国道には、コンクリートの戦車止めが設けられているのだが、そこには韓国企業の広告が描かれていたのだ。
 軍事施設への企業広告、それが韓国の現実である。

板門店:ちょうど南北が緊張していた時期で、会談場でバスを降りることは許されなかった。

北朝鮮を眺める。騒々しい印象のある国だが、国境は静かだ。

統一公園の朝鮮戦争記念碑は幼児たちの遠足ポイントになっていた。