ソウルの補習問題 第三問

 ソウル都心から少し南に行った上道という住宅街に「COMIC COZZLE」というコミック専門店ができ、そこに日本の出版関係者なら名を知らぬ人のない元大阪J書店のNさんが店長として赴任したと業界紙で知り、尋ねてみた。アポも取らず突然訪れた、しかも初対面の僕に丁寧に応対していただき、ありがとうございます。
 以下、せっかく伺った話を僕が独占していてはもったいないので、箇条書き。なお、誤りがあっても、文責は全て僕にある。

 韓国語はできないが、スタッフが日本語を話せるから大丈夫。店内にPOPがあふれているが、これはNさんやスタッフの手作り。(ちなみに韓国のほかの書店でPOPや飾り付けを見かけることはない。)

 日本の翻訳物と韓国国産の漫画は7:3くらいの比率。日本と韓国が違うのは、大手出版社との直取引が当たり前ということと、再販制度がないので割引販売が行われていること。訪問した日はイベントで25%オフだったし、ポイントカードで10%還元も行われているそう。

 売り場に中高生くらいの若いお客さんが多いのは、まだ正規の漫画文化が始まって間もないため(海賊版では出回っていたそうだが)。日本では放っておいてもお客さんの増えていた時代に何もしなかったツケが、今になって出版不況という形で回ってきたが、韓国では漫画のお客さんを大切に育てていきたい。ちなみに男性より女性のお客さんの方が多く、また萌え系を女の子も読むし、BLを男の子が読むこともある。

 Nさんご自身の情報収集は出版社(このお店は韓国の出版社が経営している)の国際部や、インターネットで収集している。ただし、お客さんにとっては一次媒体となるコミック雑誌がないので、何が売れるか予測するのが難しいとのこと。そのため、コーヒーコーナーに見本を置いたりして、お客さんが作品に触れる工夫をしている。



 「自分は現地のスタッフに漫画の売り方を教えること、伝えることができればそれでいいんですよ」と仰るNさんが、明治初期に日本を訪れて活躍した「お雇い外国人」の姿と重なる。その高い志に、なんとなくコミックのセールスをしてきた自分が恥ずかしくて仕方なかった。
 放っておけば文芸書に流れがちな自分だけど、今年度はちゃんとコミックの勉強をしようと誓うソウルの旅だった。お土産に「ドラえもん」と「ケロロ」の韓国語版を買ったが、包んでくれたのが韓国漫画のキャラクターが描かれたお店オリジナル紙袋だった。その心配りに、また脱帽。

こちらはソウル都心部にある大型書店。ワンフロアで整然とした印象(教保文庫)