中華の都で暮れ正月 その1

 天津駅のトイレに入った僕は、脳をつんざくアンモニア臭にクラクラした。
 十数個ある小便器の半分は、陶器が割れたり配管が外れたりして、使用中止となっている。小便器がこれほど故障するものだとは知らなかった。向かいに並んだ個室では、扉を開けて大用を足す人たち。くどくなるが、扉があるのに、扉を開けて使っているのだ。
 なにを大げさな、というかも知れない。中国のトイレが、いまだ前近代的状況にあるのは、自明ではないかと。しかしここは、中国政府が威信を賭けて建設した、北京・天津間を時速330kmで結ぶ新幹線(京津城際鉄路)の大ターミナルである。シルバーの時計台が空に突き出した宇宙基地のような外観、国際空港のように広々して清潔な構内、その中に突然現れた異空間は、中国の現実をそのまま映したものといえよう。
 からくりは簡単なことで、この天津駅は在来線との共用駅なのである。地下鉄が一回30円の国で新幹線は800円も取られる高級品だが、在来線は人民の乗り物なのだ。だから新幹線専用の北京南駅はいたって清潔である。
 ハコモノは簡単に建て替えることができる。しかし、人を入れ替えることはできない。