中華の都で暮れ正月 その3

 昨年は、改革開放のスタートから30年という節目で、北京の繁華街・王府井の路上では写真展などが開かれており、多くの人が立ち止まって眺めていた。中国が祝う正月は太陰暦旧正月なので、僕の滞在した年末年始はいつも通りなのだが、それでも大晦日のテレビの歌番組には「改革開放30周年記念」などと銘打たれており、政府としては経済の自由化とそれに伴う発展を、中国共産党の輝かしい成果として、内外に誇りたいのだろう。
 たしかに2008年は中国人にとって最良の一年だった。世紀の国家プロジェクトである北京オリンピックも無事終わった。四川大地震では大きい被害を被ったが、世界の援助と同情を集めることができた。チベットの弾圧はごまかすことができたし、ついでに台湾独立派の陳水扁も失脚させた。街は東京もソウルも香港も凌駕する勢いで発展している。彼らのなかで、祖国中国にこれほど満足できた年はないのではないだろうか。


 経済発展のもっとも象徴的な場所が、北京の動脈・東長安街に面した、王府井の「東方新天地」という超巨大ショッピングモールである。ガイドブックの言葉を借りれば「全長500m、売り場面積12万?とアジア最大級の商業施設」であり、とにかく大きいものを造ろうとするのは中華民族の癖だからどうでもいいのだけど、特徴的なのは中のショップの大半が外国のブランドである。西洋資本の植民地に群がる中国人の姿は、日本人と変わらない。孫文毛沢東が見たら発狂するだろう。
 僕はお土産を探しに入ったのだが、そんな場所に「中国らしいもの」があるわけもなく、地下鉄で数駅のところにある「友誼商店」へ行くことにした。
 友誼商店(ィヤオイーシャンディエン)、懐かしい響きだ。英名が「FriendShipShop」である通り、社会主義国である中国政府が外国人向けに設立した国営百貨店である。大学で学んだ中国語の教科書には、かなり最初の方(だけは勉強していたのだ)に「友誼商店で何それを買う」みたいな例文があって、耳に残っている。
 そんな青春の思い出・友誼商店には笑っちゃうくらい客がいなかった。役場のような白い壁紙と単調なレイアウト、商売を放棄した色気のないディスプレイ、身分を保障された国家公務員だからかおしゃべりに興じる店員たち…我々日本人が「社会主義」と聞いてイメージするそのままの風景だ。かつては団体観光客がバスで乗り付け、大いに賑わったというが、ツアー客はリベートを上乗せされた民間の土産屋に誘導されるようになり、客足が途絶えたのだという。
 富裕層で賑わう東方新天地と、時代に取り残された友誼商店。中国の今昔を味わうのにこれほどの対比はあるまい。