中華の都で暮れ正月 その4

 中国の食べ物はきわめて安い。ひとり旅だとファストフードが楽なので、好んで入った「李先生」という全国380店舗展開のチェーン店は、麻婆豆腐丼とスープの定食で80円ほどだし、別の店で朝食べたワンタンと豚まんはその旨さにしてわずか70円ほどだった。
 そういった物価水準を考えると、異様に高いのがサンドイッチやコーヒーといった「洋モノ」である。コーヒーは500円近く、サンドイッチは1000円近く取られる。
 高いから広まらないのか、広まらないから高いのか、カフェの数は上海と比べて少ない。僕は北京駅近くのビジネスホテルに泊まっていたが、何万という人通りがあるエリアなのに2、3軒しか見つけられなかった。


 ところが、あるところにはあるもので、郊外の廃工場を利用した芸術家たちのたまり場・798芸術区や、若者が集まる南羅鼓巷には、これでもかという密度でいわゆる「お洒落カフェ」が並んでいるのだ。
 観光客は肩肘をはってしまう。せっかく外国に来たのだから、その土地らしいモノで胃を満たしたいと企む。北京のように安くて旨い食べ物が揃っている街ではなおさらだ。そんな僕も、滞在が5日、6日と経つにつれて、超高級品であるコーヒーを飲みにカフェをはしごしてしまうのは旅人の限界か。
 南羅鼓巷、居心地のいい通りである。故宮の北北東にあり、細い一方通行の両側に小さなカフェ、バー、外国料理店、センスのいい雑貨店(というのが他のエリアではまず見られないのだ!)が並ぶ。扉を開けると若いオーナーが、ノートパソコンをあけて、ネットでなにやら調べている。相談や注文も漢字と英語で通じる。
 中国では1980年代生まれの若者をさして「80后」というそうで、文化基盤が西洋的生活、英語、インターネットにあり、会話が成り立ちそうなものである。しかし、現実の僕はカフェラテを飲みながら、ふかふかしたソファで同世代の若者たちがだらだら時間をつぶす様子を眺めるのみ。と、足下がもぞもぞすると思ったら、黒猫がヒザにあがってきた。まず見知らぬ人に寄りつかない東京の猫と比べて、ずいぶん積極的な奴である。
背中をなでていたら眠ってしまった。どうしたものか…