サイゴン日記 その1

 サイゴン滞在初日は、とにかく声をかけられた。
 午前8時半、9月23日公園付近。43歳のバイク乗り。「1時間5ドルで案内する。中華街のチョロンまで行ってみないか?」と日記帳らしきモノを取り出し、日本人観光客の書いた「この人は信頼できる」というコメントを見せられる。
 午後0時半、ベンタイン市場付近。シクロ(人力車風自転車)乗り。「バッグは前に持たないと危ない」確かにそうだがお前の方が危ないぞ。「ぜんぜん客がつかまらないから乗ってくれ。子供が2人いて大変なんだ」
 午後1時頃、再び同公園付近。40代の(自称)看護師。「今度仕事で日本へ行く。住まいやいろいろ相談に乗ってほしい」そうですか「ついては家族に紹介したい。このドルを日本円に両替してほしい」
 午後3時半、デタム通りのカフェ。ボーイのフォン君が「日本語を教えてほしい」というので、即席の日本語講座を開講。ノートに電話番号と”I see dabu very lovely give so I very like to dabu"という不思議な英語を書き残した。
 午後4時頃、三たび同公園付近。船上カジノに勤務するというフィリピン人。「俺は勝ち方を知っている。それを教えるから二人で儲けないか」ひと稼ぎしてそのまま世界一周というプランが頭をよぎった。
 午後7時頃、デタム通りのレストランで広東風チャーハンを食べながら一人ビールを空けていると、店の18歳の娘さんが前に座って話しかけてきた。「日本人のケイというボーイフレンドがいるの」肌は小麦色で目はパッチリ、美人が多いベトナム女性の中でもとびきりだ。彼がうらやましい。
 東京で見知らぬ人に声をかけられるなんて年に何回あるかということなのに、人懐っこいというか、よく声をかけてくるものだ。暑い国らしい陽気さというか積極性がうらやましく、その一割でも僕にあったなら、人生変わっているだろうに、なんて思う。