美しき島、麗しきテツの旅 その3

 表日本・裏日本という言い方があるが、台湾も発達しているのは島の西側で、首都の台北、南部の中心・高雄をはじめ、台中、台南など主だった街はすべて西の台湾海峡側にある。一方、島の東部は発展からやや取り残された格好だ。
 ただ、旅人にとって日本海側が旅情あふれる豊かな街であるのと同様、台湾の東部にも味わいがあるのではと思い、高雄発16時30分のディーゼル特急自強号で裏台湾への旅に出た。


 序盤、熱帯らしい椰子の密生林を眺めながら列車は走る。椰子の木なら宮崎あたりでも見ることはできるが、生え方が猛烈なのだ。その後、南方の坊山では、台湾海峡を望む区間があり、夕暮れに海と空が溶けあい、その狭間に一艘の漁船が浮きあがる絶景。
 トンネルで山を抜け、19時11分台東着。窓口で翌日の切符を買うのに手間取るあいだに、街の中心部へのバスは行ってしまい、開業時の岐阜羽島を思わせる何もない駅前広場に取り残されてしまった。結局、ポリシーに反しながらもタクシーで街に入り、ふらり入った安宿に泊まる。宿主のお爺さんは80歳近く、手は震えるものの日本語は達者「階段を上がり、扉を開けよ。」車代片道800円、宿泊費1500円には何も言うまい。気温30度とあって、かなり虫の襲撃にあったとだけは書き残しておこう。


 翌日、6時20分発の特急で再開。線路は海岸から離れ、崖のような山と山に挟まれた田畑の真ん中を走る。靄におおわれた山あいの村が、朝日に照らされる風景は幻想的。花蓮という石造りの大きな駅を過ぎてからは乗客も一気に増え、駅弁売りも車内を回り始める。長いトンネルの間に太平洋を眺めながら、10時20分宜蘭着。この街には日本統治時代の長官官邸や監獄跡、銀行の建物が残っており、散策にはちょうどいい。12時9分の急行で台北までおよそ2時間ほど。


 最近のにわか鉄道ブームで、国内のローカル線が注目を浴びているが、これから鉄道旅行を始めようという人にこそ、台湾の旅を薦めたい。大陸中国のように切符購入に格闘する必要もなく、韓国のように駅名のハングルに頭を悩ます必要もない。
 ツアーでも企画しちゃおうかな。
こういった旧型の客車はさすがに少ない
宜蘭駅舎、日本統治時代から残る古い建物も台湾には多い